「トリファラ」アーユルヴェーダハーブの効果

「トリファラ」アーユルヴェーダハーブの効果

健康の維持・向上、心の安定や美容など、さまざまな目的でヨガをしている方がいらっしゃるかと思いますが、ヨガは海外では医療の補助や代替ケアとしても注目されています。
文献検索サイトに「Yoga」と入力してみると、2024年9月末までに約8,700件を超える研究報告があり、科学的な視点からもヨガの効果が確認されつつあります。
また、ヨガとも関係があるインドの伝統医療「Ayurveda(アーユルヴェーダ)」を検索してみると、8,100件を超える報告があり、ヨガと同じように研究が進められていることがわかります。
今回は、2017年にアメリカから報告されたアーユルヴェーダ薬の一つ「トリファラ」の治療的効果についての研究報告を紹介します。

1. 万能薬として古代から崇められる「トリファラ」

伝統的なハーブ「トリファラ」
伝統的なハーブ「トリファラ」

最も古くから伝わる薬物療法の代表であるハーブや薬草を用いた治療法は、ヒトの健康やホメオスタシス(恒常性)を維持するための効果的な手段の一つであると、ヘルスケアの分野では考えられています。
サンスクリット語で「生命の叡智」「完全な健康の科学」を意味するアーユルヴェーダは、古代インドから伝わる伝統医療で、病気の予防と健康増進を重視した一人ひとりに合った医療を提供する個別化医療システムです。

アーユルヴェーダ薬の中でも「トリファラ」は、万能薬として崇められるほどに広く知られています。アーユルヴェーダの基礎となる『チャラカ・サンヒター』、『スシュルタ・サンヒター』などの重要な経典によると、インドの伝統医療では1000年以上も前から使用されていたと記されています。また3つのドーシャが調和しており、あらゆる体質や年齢の患者に対して、長寿と若返りを促進するとも言われています。
現代的な西洋医学も伝統医療のアーユルヴェーダも、健康や病気は腸から始まるという見解が一致しており、「トリファラ」は腸で行われる効率的な消化・吸収・排泄を促進するための基礎処方に用いられています。

2. アーユルヴェーダにおける「トリファラ」の分類と薬理的特徴

3つのドーシャ
3つのドーシャ

「トリファラ」は、3つのドーシャが調和しているトリドーシャ・ラサーヤナに分類されています。ヴァータ、ピッタ、カパのあらゆるタイプの疾患に適しており、子どもから高齢者、虚弱体質まで幅広く用いることができるとされています。
「トリファラ」(トリ=3つの、ファラ=果実)の名称のとおり、アーマラキー、ヒビータキー、ハリータキーの3つの果実が、同じ割合で配合されています。アーマラキーは重くて乾燥した性質があり、ヒビータキーとハリータキーは軽くて乾燥した性質を持ちます。また、6つのラサ(味)のうち、塩味以外の甘味・酸味・辛味・苦味・渋味の5つのラサ(味)を有します。
すべてのドーシャと体質に対応し、消化を助けて胃腸の調子を整える以外にも、浄化に用いられるなど、アーユルヴェーダの医学文献や逸話の両方で多種多様の効能が説明されています。『チャラカ・サンヒター』によると「トリファラ・ラサーヤナ」(ハチミツとギーを加えたトリファラ)を毎日摂取すると、老衰や病気にかからず100年間生きる可能性があると伝えられているようです。

3. 「トリファラ」の治療用途とこれまでの研究結果

「トリファラ」は、アーユルヴェーダにおいて主に胃腸の治療に用いられます。
食欲を増進し胃酸過多を抑え、食物を適切に消化吸収することを促進する効果、下痢の予防、便の硬さ・頻度・量などを調整するといった胃腸の健康に対する使用は、最もよく知られています。また、ストレス性潰瘍から胃や腸を保護したり、大腸炎を軽減する効果についても報告されています。
さらに、「トリファラ」の特徴である複雑な配合は胃腸の治療以外にも多くの治療用途に用いられ、様々な効果が報告されてきました。主なものとして、抗酸化作用、抗炎症作用、免疫調整作用、抗がん作用が認められています。また、ホルモン等の内分泌系を安定させて身体の恒常性を維持し、細胞レベルで老化を防ぐアンチエイジング効果にも期待がよせられています。

現代人の多くが抱えるストレスに対する研究もされています。ストレスに慢性的にさらされると、体内で酸化物質が増えて炎症が起こり、免疫機能が乱れ、その不調和から多くの慢性疾患につながると言われています。動物実験の結果によると、「トリファラ」は抗酸化作用を発揮し、免疫機能を活性化させることで対ストレス効果があることが分かりました。

また、肥満や糖尿病を予防する効果についても報告がされています。「トリファラ」を摂取することで、体重の減少、体脂肪率の減少、エネルギー摂取量の減少が認められました。糖尿病患者を対象とした研究では、5gの「トリファラ」を45日間摂取することで血糖値が大幅に低下したという報告がありました。さらに日本でも、三大死因の一つである心臓血管系疾病と大きく関係がある血中コレステロール値を下げることも示唆されました。

以上のように「トリファラ」は、古代から現代にわたって健康の維持や病気の予防・治療に役立つアーユルヴェーダハーブであることがわかりました。自然なハーブを用いた治療は効能が幅広く多種多様なため、補完代替医療の一つとしてますます注目され研究が継続されています。

身体に良い効果がたくさんあるとはいえ、過剰な摂取は禁物です。摂取については、アーユルヴェーダドクター等が指定する量や個々の体質、体調に合わせた適度な量を守るようにしましょう。バランスのよい食事を含めた日々の生活習慣の中に、少しずつアーユルヴェーダのエッセンスを取り入れ、ヨガと共に楽しく健康の維持や増進に役立ててみてはいかがでしょうか。

参考文献