健康の維持・向上、心の安定や美容など、さまざまな目的でヨガをしている方がいらっしゃるかと思いますが、ヨガは海外では医療の補助や代替ケアとしても注目されています。
文献検索サイトに「Yoga」と入力してみると、2024年9月末までに約8,700件を超える研究報告があり、科学的な視点からもヨガの効果が確認されつつあります。
ところで、REDs(レッズ)という言葉を聞いたことはありますでしょうか?これは、アスリートの健康を守り、さらにパフォーマンスを向上するための考え方の一つで、国際オリンピック委員会により2014年に提唱されたのが始まりとされています。スポーツ科学分野の研究もかなり進んでることを踏まえ、今回は、身体と健康・食事という視点から、2024年に報告された女性アスリートの健康と栄養に関する研究を紹介します。
1. 研究の背景
REDsとは、Relative Energy Deficiency in Sportの略で、スポーツにおける相対的エネルギー不足を意味します。
以前は、女性アスリートが直面する三主徴(TRIAD)は、栄養障害・無月経・低骨密度(骨粗しょう症)と言われてきました。しかし現在においては、男女を問わずアスリートに影響を及ぼす可能性があるとして、栄養障害による様々な健康問題に広く焦点が当てられるようになり、国際オリンピック委員会がREDsの用語を導入しました。
女性アスリートの中で特に低栄養に陥りやすいと考えられるのは、体操、マラソン等の長距離走、スケート、バレエなどが挙げられますが、一般女性においてもしばしば低栄養の問題が増えています。
スポーツ栄養学はますます注目され、スポーツ指導者やアスリート本人にとっても大きな課題となっています。アスリートにとって適切な栄養摂取は、スポーツのパフォーマンスを向上させるだけでなく、ケガや健康状態の悪化を防ぐことにつながります。健康と運動能力の維持・向上・回復は、長い目で見たスポーツキャリアにとって非常に重要です。
そこで今回は、さまざまな種類の女性アスリートを対象に実施された過去の研究から、運動によるエネルギー消費や適切な骨密度を維持するために必要な栄養素の摂取について確認し、栄養とスポーツ障害の関係性を検証することを目的としました。
2. 研究の方法
文献検索サイトに、以下の関連するキーワードを入れて検索しました。
- 女性アスリートの三主徴(TRIAD)
- スポーツにおける相対的エネルギー不足(REDs)
- アスリートまたは身体的運動を活発に行う女性
- 微量栄養素
- サプリメント
- スポーツ
- バイオアベイラビリティ(摂取した栄養素などがどのように体内で利用されるか)
- 栄養素の吸収
- 血中濃度
- スポーツ栄養学
一次検索の結果、11,000件を超える研究報告がヒットしました。その中から、今回の研究デザインに合う141件の報告に絞り込んで確認しました。
3. 研究結果
体重別種目や痩せていることを重視する種目のアスリートにおいては、特に摂食障害に陥りやすい傾向があります。それによって引き起こされる利用可能エネルギー不足の状態(LEA)は、TRIADやREDsにつながることが懸念されています。ある研究では、女性アスリートのうち、47~53%で利用可能エネルギー不足状態のリスクがあり、40~45%が摂食障害を抱えていると報告しています。しかし、これは氷山の一角であるとも言われていて、実際にはもっと多いとも言われています。
利用可能エネルギー不足の状態やBMIが21未満の場合、無月経の場合には、トレーニングによって繰り返される負荷による筋肉や骨への損傷に対する修復が追いつかなくなることから、疲労骨折のリスクが大幅に上昇することが報告されました。
食事や栄養摂取は、健康な骨格の成長と発達に必要不可欠であり、正常な骨密度を維持し、将来の加齢に伴う骨粗しょう症や骨折を防ぐ重要な役割を果たします。特に骨の健康には、ビタミンD、カリウム、リンを十分に摂取することが必要です。中でもビタミンDは、骨の健康だけでなく、免疫システムにも必要であることが広く知られています。アスリートにとっては、ケガからの回復を助け、パフォーマンスを最適化し、神経筋機能を維持することも分かっています。食事から摂取することも可能ですが、日光浴によって体内で生成することも大切です。
時代とともに変わる考え方
スポーツ等によって要求される見た目やパフォーマンスのために、身体をしぼったりすることが当たり前だった時代が終わり、アスリート一人ひとりが最適な健康状態でパフォーマンスを存分に発揮できるような考え方に変化してきました。同時期の2015~2017年頃、世界トップのファッションコレクションではBMI値が規定され、モデルは細くなくてはならないと言われていた時代から、痩せすぎによる病気を防ぐ考え方にシフトしました。
これまでのダイエットは、食事量を減らし激しい運動をするといったイメージでしたが、今回の研究報告からも分かるように、食事は健康な身体をつくり、維持する上でとても重要な土台的要素であることが分かります。古代から続く修行的なヨガの中には、断食をすることで体内の浄化をする方法もあり、現代でもプチ断食や様々な食事療法などが個人の判断や専門家の指導の下で行われる場合があります。過度に食事を減らすことも、不調や病気に繋がりかねません。心身ともに健康であるためには、個々人の健康状態や仕事・運動量などに対して総合的にバランスのとれた食事・栄養の摂取が不可欠のようです。
最後に、『バガヴァッド・ギーター』から食事に関係する一説を引用します。
…… ヨーギーになるためには
食べ過ぎてはならず、少食に過ぎてもならない。
眠りすぎても、また睡眠不足でもならない。A.C.バクティヴェーダンタ・スワミ・プラブパーダ. 2020. 『バガヴァッド・ギーター あるがままの詩』6章16節. The Bhaktivedanta Book Trust. p, 332
食事、睡眠、休養や仕事において節度ある習慣を持つ人は
ヨーガを行うことによって
あらゆる物質的苦悩をやわらげることができる。A.C.バクティヴェーダンタ・スワミ・プラブパーダ. 2020. 『バガヴァッド・ギーター あるがままの詩』6章17節. The Bhaktivedanta Book Trust. p, 333