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みなさんは、ヨガの練習をしている時に自分の内側のエネルギーの流れについて考えたことはありますか。
ヨガでは、自分の内側のエネルギーをコントロールすることをとても重要視していて、その中でも3つのナーディ(気道)を通るエネルギーがヨガの成功の鍵だと考えられています。
今回は、体の中央を流れるイダー・ピンガラー・スシュムナーという3つのナーディについて勉強しましょう。
体内を流れる3つのナーディ
ハタヨガでは、呼吸によって体内に入ってくるエネルギーの流れを使って、自分の内側の状態を整えます。体内を流れるエネルギーはプラーナ(気)と呼ばれ、気の流れと心の働きは連動していて、心が動くと気が動くと考えられています。
気が動くと心も動く。気が動かなければ心も動かなくなる。ヨーギーは不動心に達しなければならない。だから、気の動きを制止すべきである。
佐保田鶴治. 1983年. 『ヨーガ根本経典 ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』2章2節. 平河出版社. p194
体の中に入ったプラーナは、自由に体内を動き回るわけではありません。呼吸によって体内に入ってきたプラーナは、ナーディを通って体内を流れます。体内には72,000のナーディがあると言われていますが、その中で特に重要視されているのが、イダー・ピンガラー・スシュムナーという背骨沿いにある3つのナーディです。
興味深いことに、3つのナーディのうち、プラーナが優勢に流れている位置によって心身の状態が変わります。日常生活では、イダーかピンガラーのどちらかが優勢になっています。
では、それぞれのナーディの特徴をみていきましょう。
太陽のエネルギーを司るピンガラー(右の気道)
まずは、ピンガラーをみていきましょう。
ピンガラーは、右の鼻腔から胴体の底辺まで続くナーディで、別名スーリヤ・ナーディ(太陽の気道)と呼ばれています。太陽の気道と呼ばれている通り、昼間のエネルギーを帯びているので、右の鼻腔で呼吸をしている時にはとても活発的になります。交感神経が優位になり、熱く、外交的な特徴があり、男性的なエネルギーであるとも言われています。陰陽では陽のエネルギーで、ポジティブで理論的な思考が働きます。
伝統的なハタヨガでは、ピンガラーのエネルギーを優勢にするプラーナーヤーマ(調気法)が積極的に行われます。それは、体内で炎を燃やすことで不純性を燃やしきり、清浄さを高めることができると考えられているからです。
月のエネルギーを司るイダー(左の気道)
次は、イダーについてみていきましょう。
イダーは、左の鼻腔から胴体の底辺まで続くナーディで、別名チャンドラ・ナーディ(月の気道)と呼ばれています。イダーは、夜のエネルギーを帯びていて、左の鼻腔で呼吸をしている時はとてもリラックスしている状態になります。副交感神経が優勢になり、冷たく、内向的な生活になりやすく、女性的なエネルギーであるとも言われています。陰陽では陰のエネルギーで、ネガティブで感情的になりやすい特徴があります。夜、寝る前に考え事をすると感情的になりすぎてしまう人は、まさにイダーのエネルギーが高まっているのですね。
イダーは、日中に活動して疲れた身体を回復するための大切なエネルギーです。現代人は情報過多な社会で疲労しやすいため、月のエネルギーを働かせる時間を大切にしたいですね。
宇宙のエネルギーを司るスシュムナー(中央の気道)
左右の鼻腔から続くイダーとピンがラーに対して、中央にあるスシュムナーは、息を吸っている時にはエネルギーが流れないナーディです。左右のナーディで、プラーナを体内に取り入れた状態でクンバカ(息を止めること)を行うことではじめてプラーナが流れます。
スシュムナーは、宇宙全体を司るナーディです。両性の特徴を兼ね備えていて、暑い寒い、明るい暗いなどの二極性の特徴に縛られず、サットヴァ(純粋)がとても高い特徴があります。深い瞑想状態や真実が観えている状態が、スシュムナーが優勢になっている時です。
日常でイダーとピンガラーを意識してみよう
私たちが生きるためには、イダー(月)とピンガラー(太陽)の両方のエネルギーが必要です。どちらかが過多になっても、バランスが崩れてしまいます。
日中、活発に活動したい時間帯にはピンガラーが優勢になることで、エネルギーに満ち溢れイキイキと生活することができます。そして元気に活動して疲れた身体は、しっかりと休めて回復しなくてはいけません。しかし、現代社会ではこれらのエネルギーの切り替えが難しくなっていて、特にイダーを流れる月のエネルギーが弱まりやすい傾向があります。
本来、リラックスするべき夜の時間帯であっても、街は街頭で明るく、騒音であふれています。自宅でも、スマートフォンやテレビの画面を見ることで思考がアクティブになり、ピンガラーが優勢になりがちです。しっかり回復することができないと自律神経のバランスが乱れ、日中でも急に電池切れを起こしたかのように倦怠感に襲われます。
自然な状態では、人は約90分おきにイダーとピンガラーのスイッチを切り替えています。昼間でもずっとアクティブなわけではなく、適度にリフレッシュする必要があります。また、夜寝ている時も、ずっと泥のように深い眠りについているわけではありません。夢を見ている眠りの時間には、体が眠っていても心が遊んでいるとヨガでは考えます。その時間に、記憶や感情の整理を行なっているのですね。
ナーディの確認の仕方
今の自分が太陽か月のどちらの状態にいるのかは、簡単に確認することができます。
左右の鼻腔を片方ずつ閉じて、呼吸をしてみましょう。通常は、左右の鼻腔が平等に開いていることは少ないので、片方が詰まっていると感じることが多いです。
例えば、右の鼻を指で閉じた状態で呼吸をした時に詰まりを感じている場合は、左が詰まっているので、右の鼻を通る太陽のエネルギーが活発になっています。つまり、詰まっていない方が、現在優勢になっているエネルギーです。勉強や仕事を頑張りたい時間帯であれば、太陽のエネルギーが活発なのは良い状態です。しかし、これから寝ようとしているのに太陽のエネルギーが優勢であれば、睡眠の質が下がったり寝つきが悪くなったりしてしまいます。
左右のナーディを簡単に切り替える方法
ヨガでは、様々な方法で左右のナーディをコントロールします。
例えば、太陽のエネルギーを生み出したい時には、右の鼻腔で息を吸うスーリア・ヴェーダナ・プラーナーヤーマを行うなど、活発にしたい方の鼻腔で呼吸をする伝統的な方法があります。
さらに簡単に左右のナーディを切り替える方法は、スワラ・ヨガで行われている脇を圧迫する方法です。活発にしたいナーディの反対の脇を圧迫することで、ナーディが切り替わります。
例えば、右のピンガラーを活発にしたい時には、左の脇にタオルを丸めたものやヨガブロックを挟み、そちらを下にして横向きに5〜10分程度寝ます。すると、不思議と右の鼻腔での呼吸がスムーズになります。夜寝る時には、左のイダーを働かせたいので、右の脇を圧迫しリラックスした状態に導きます。
自分の内側の太陽と月のバランスを整えよう
太陽と月の2つのプラーナは、1日の中でバランスをとることが大切です。
どちらか片方だけが極端になってしまうと、体に不調をきたしたり精神のバランスが取れなくなったりします。そのため、ヨガ的な生活スタイルでは、節度が大切です。
また、精神的な状態も左右のエネルギーに影響を与えます。常に緊張してストレスが高い状態にいると、月のエネルギーが阻害されてしまいます。
自分のライフスタイルで、太陽と月の切り替えを意識してみることで、健康的で快適な人生を楽しむことができるはずです。