健康の維持・向上、心の安定や美容など、さまざまな目的でヨガをしている方がいらっしゃるかと思いますが、ヨガは海外では医療の補助や代替ケアとしても注目されています。
文献検索サイトに「Yoga」と入力してみると、2024年12月末までに約8,900件を超える研究報告があり、科学的な視点からもヨガの効果が確認されつつあります。
今回は、2023年にヨーロッパのオーストリアで発表されたメンタルヘルスとストレスマネジメントに対するハタヨガの効果についての研究報告を紹介します。
1. 研究の背景
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ヨガは、身体的、精神的、霊的な側面を有するインド発祥の統合的実践法です。ヨガを行なうことで、今ここで起こっていることに対してノンジャッジメンタル(善悪の判断なし)に注意を向けることと定義されるマインドフルネスを向上することが分かっています。
ヨガは、健康に良い効果があるとすでに数多く報告されており、それを目的にしてよく実践されています。ここ数十年、ヨガは西洋社会においてもますます人気が高まっており、特に身体的側面のアーサナ(ポーズ)に重きが置かれています。
本研究では、不安やストレスなどのメンタルヘルスに焦点を当て、8週間のハタヨガプログラムの実践による効果を検証することとしました。
不安・ストレスのいずれも、一時的な場合もあれば長期的に持続して慢性化する場合もあります。不安やストレスは、身体的および精神的健康、そしてウェルビーイングに悪影響を及ぼす可能性があります。
マインドフルネスのレベルが高い人ほどストレスが少ないとの報告もあり、ヨガを行なうことでマインドフルネスが向上され、メンタルヘルスに大きく貢献できる可能性が期待されています。
2. 研究の方法
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この研究では、18~40歳の健康なヨガ初心者98名が参加しました。参加者は、ヨガプログラムを実施した54名と、ヨガを行わなかった比較対照群44名にランダムに振り分けられました。
ヨガプログラムを実施した54名には、8週間にわたるハタヨガプログラムが提供されました。最大週に5回、少なくとも週に3回は参加するよう依頼しました。時間は1回あたり60分間で、5~10分間のウォームアップ、40~50分間のアーサナ、5~10分間のシャヴァーサナで構成されました。また、週単位でクラスのテーマやメインポーズが計画され、それに従って提供されました。
- 1週目:太陽礼拝、呼吸法(ダウンドッグ、コブラ、トカゲ、ランジ)
- 2週目:立位のポーズ(戦士のポーズⅠ・Ⅱ、三角のポーズ、椅子のポーズ)
- 3週目:前屈ポーズ(様々な前屈ポーズ、鳩のポーズ、バタフライ)
- 4週目:ツイストポーズ(腹部のツイスト、ワニのポーズ、ねじった三角のポーズ)
- 5週目:後屈ポーズ(橋のポーズ、バッタのポーズ、弓のポーズ)
- 6週目:座位のポーズ(蓮華座、舟のポーズ、チャイルドポーズ)
- 7週目:バランスポーズ(木のポーズ、戦士のポーズⅢ、カラスのポーズ、半月のポーズ)
- 8週目:週1~7のテーマやポーズの組み合わせ
このハタヨガプログラムを実施するにあたり、研究グループとクラスを提供する4名のヨガインストラクターが協力してプログラムを設計しました。
週に8~9回のクラスを提供し、参加者はその中から規定の回数出席することができます。
8週間実施した後、ヨガインストラクターによるプログラムの評価も5段階で行われました。その結果は以下のとおりです。
- 呼吸に対するアプローチ:4.3ポイント
- 身体意識に対するアプローチ:4.0ポイント
- 受容、思いやりに対するアプローチ:3.9ポイント
- 瞑想、マインドフルネス:3.0ポイント
- 身体性(身体に対する感覚や能力):3.0ポイント
3. 研究の結果
ストレスや不安に関する測定指標を用いて、8週間のハタヨガプログラムを実施した参加者と比較対照群を比べて評価した結果、以下の効果が認められました。
- 知覚ストレスの有意な減少
- 知覚ストレスに対する反応の有意な減少
- 不安に対する指標は向上したものの、統計的に有意なほどの差は出なかった
- マインドフルネスの顕著な向上
本研究の結果からも、マインドフルネスの状態とストレス受容度の変化との関係性が見られ、マインドフルネスが高い参加者ほどハタヨガの実践によって知覚ストレスがより顕著に減少したことが確認されました。
マインドフルネスのレベルが高いことは、ありのままを受け取る・受け入れる能力がより高いともいうことができ、教えられた要素をより容易により速く学習できることによって、さらに有益な効果をもたらす可能性が考えられます。
ヨガの中でも、身体的運動要素を伴うハタヨガを定期的に実践することでマインドフルネスが高まり、ストレスや不安などに対するメンタルヘルスの向上に効果があることがこの研究結果から分かりました。
また、今回提供されたヨガ初心者向けプログラムの内容を見てみると、フォーカスする体の部位や難易度が段階的に変化しており、自分自身のためのプラクティスや生徒に向けたクラスづくりの参考にもなりそうです。
心身の健康の維持・向上に、ヨガを役立ててみてはいかがでしょうか。