テーブルの上にティンシャなどヨガグッズが並べられノートとペンが置かれている

パタンジャリがまとめた「ヨーガスートラ」を紐解いてみよう

経験哲学:ヨガは心の科学でありアートである

ヨガの心と身体のエクササイズの側面は「サイエンス(科学)」の領域です。英語で「Art&Science(教養)」と表現されているように、インド人はArt(考え方)の分野をヨガスートラとして語り継いできました。

ヨガにおいては、哲学(Art=考え方)と同時に、呼吸と身体に与える効能としての経験(Science=科学)を重要視することで、 Art&Scienceの実践が行われています。

そこで、ヨガ哲学についてさらに深く掘り下げていきましょう。ヨガスートラはパタンジャリが編纂したとされ、200もの教えが導かれています。もともとのヨガスートラは、以下の通り4冊の本から成り立っています。

  1. Book1:瞑想について
  2. Book2:練習について
  3. Book3:達成について
  4. Book4:絶対について

ヨガは経験哲学なので、私たちは繰り返し長い時間をかけて自分の経験と照らし合わせて学んでいくことができます。

ヨガが意図したところ:苦しみから救われたいという願い

川辺で灯っているキャンドル
苦しみから抜け出したいという願いからヨガ哲学は生まれた

ヨガは、人々を苦しみから救うために生まれたものと云われています。では、苦しみはどうして起こるのか。

苦しみの原因、5つのKlesha:クレーシャ

  1. Abidya : アビデャ/間違った認識
  2. Asimta : アスミタ/英語では Iness などと訳されていますが、無意識な先入観
  3. Raga : ラーガ/いい思い出にもとづく執着
  4. Dvesha : ドベシャ/悪い思い出に基づく嫌悪感
  5. Abinivesa : アビニベサ/恐怖心

苦しみによって起きる障害(Antaraya:アンタラヤ)

  1. 心の不調
  2. 身体の不調
  3. 迷い
  4. 考えずに行動してしまう
  5. 怠け癖
  6. 快楽に耽り過ぎる
  7. 偏屈
  8. 達成するまで頑張れない根気のなさ
  9. 達成しても、飽きてすぐやめてしまう

苦しみや障害によって引き起こされる症状

  1. 嫌気(抑圧された気分)
  2. マイナス思考
  3. 身体の不調
  4. 呼吸の乱れ

上記の症状のうち、1〜3は隠すことができるが、4の呼吸の乱れだけは隠すことができないと云われています。

ヨガスートラの教え:素直でいなさい

夕陽の沈む海辺で両腕を挙げている女性
素直な自分でいよう

ヨガスートラには様々な教訓が書かれてありますが、総合的に「素直でいなさい」ということが書かれてあるように思います。偏見を持ったり、先入観を持ったりすることが自ら苦しみを生むことにつながります。

しかし、ヨガは経験哲学であり、生活の中に活きるものであるため、山の中の仙人のように全ての執着を断ち切る必要はありません。ヨガをやることで心がクリアになる、と言われるのは、「今、何の執着を手放せば、苦しみから逃れられるか」ということがわかるようになるからです。そのため、そのときそのときの苦しみに対処していく、長いプロセスなのです。

人生は旅ですから、いろんな苦しみと出会うでしょう。行き詰まったとき、苦しくなったときの解決策として、まずは素直になること。逆に言うと、素直になれないときに、人は苦しむのではないのでしょうか。

ヨガでは人生を3つのステージにわけています

  1. 先生や友人、親、社会など、自分の周りから学ぶ時期
  2. 家族を創り、社会のために生きる
  3. 使命を果たしたら、自分のために生きる

2では愛する人と出会い、子供を作ります。家族は一番小さな社会の単位なので一層大切にします。ヨガでは「禁欲」ということも言われますが、適切な欲は保っていてもよいとされています。家族や愛する人を悲しませないような欲の使い方をしている限りは問題ないのです。敢えて、禁欲という意志がもてはやされるのは、そういう強い意志は社会を変えたり、いい方向に持っていくときにとても役に立つからです。確固たる意志を持つトレーニングでもあるのです。

3では、孫ができるぐらいになり、自分の家庭を治める時期も卒業することになったら、今度は静かに自分のためにヨガを楽しみます。

YamaとFaith(信義、信用、信頼)

ムードラの指先に夕陽が乗っている
信用を育む人生を送ろう

ヨガにおけるYama(ヤマ)とは、本来は「手綱」の意であり、ヨガでは「禁戒(慎むべきこと)」を意味します。教典「ヨガスートラ」に書かれている「アシュタンガ(八本の枝・手足)」の1項目であり、

  1. アヒンサー(非暴力、傷つけない)
  2. サティヤ(嘘をつかない)
  3. アスティヤ(盗まない)
  4. ブラフマチャリヤ(禁欲)
  5. アパリグラハ(不貧、必要以外のものは持たない)

の5つからなります。どうしてこれらのことは大事だと言われるのでしょう。逆に、これらを心がけないとどういう状況になるでしょう。

それは「信用」を失ってしまうことにつながります。特に一番上にある「非暴力」がポイントです。傷つける人を信用する人はいません。社会で生きていくには、いろんな人との信用、信頼が欠かせません。もちろん他人だけではなく、仕事に、物に、そして自分に対する信頼も大切です。信じる力で人生は左右されると言っても過言ではないでしょう。信頼のないところでは、人は迷い、疑いによって苦しむことになります。

ただ、信用は一朝一夕に築けるものではありません。毎日の積み重ねで人は信頼を育んでいくものです。とっさに妄信的に判断する、ブラインド・フェイス(Blind Faith)ではいけないのです。

例えば病院で。先生と患者さんの間に信頼関係があるかないかで回復の速度は全く違うとのことです。素直な心で接すること。ヨガの教えはこの一言につきるのではないでしょうか。

文・LUNA2