乳がんとヨガの臨床試験
現在検索できた乳がんとヨガの臨床試験は16試験ありました。その中のいくつかをご紹介します。
まず、2006年3月から始まり、2011年3月に最終的な結果が出る予定の、MD Anderson Cancer Centerで行われている研究です。
内容は、乳がんの術後、放射線治療中の6週間の間に
- 週3回、ヨガを行うグループ
- 週3回、ストレッチを行うグループ
- 観察群(放射線治療が終了後はヨガやストレッチのクラスに参加可能)
に分けて、1、3、6ヵ月後の疲労の具合や、睡眠障害の有無、生活の質(QOL)などを評価します。
この研究の特徴
他の研究ではヨガをするか・しないかの2グールプのみで行われているものが多いのですが、この試験の特徴的な部分は、ストレッチのグループが入っていることです。これはヨガの特徴である、呼吸法や瞑想などがどのように患者に影響を及ぼすかを、考察できる研究デザインになっています。
さらに研究は進められている
上記の試験をもとに更に今年から大規模な臨床試験がMD Anderson Cancer Centerで始まりました。米国国立がん研究所より4500万ドル(約3億7000万円)の研究費を受託し、同じ研究デザインで600人の患者を200人ずつのグループに分けて研究が行われます。2012年10月以降に結果が出てくると思います。この研究の結果でヨガが乳がんの患者さんによい影響があることが確認できれば、積極的に乳がんの患者さんにヨガを勧める科学的根拠が確立されることになるでしょう。
睡眠の質がよくなり、疲労改善の効果も期待できるヨガ
今年の米国臨床腫瘍学会で発表された研究は410人のがんサバイバー(75%は乳がん患者)を対象に、「ヨガを行うグループ」と「観察群」に分けて研究が行われ、ヨガを行ったグループで優位に、睡眠の質がよくなり、疲労の改善が認められたと報告しました。この研究は患者数410人という大規模な研究であり、がんサバイバーにとってヨガが効果的であることを強く支持する研究です。そして今まで行われた研究の中でヨガを行うことで患者に何も副作用がないと言うことも非常に注目すべき点であると思います。今後の臨床試験で、乳がん患者さんに対するどのような効果が証明されるのか非常に楽しみです。
私のブログ「乳腺科医のHouston留学日記」では乳がんとヨガに関する論文の解説などをしたページがありますので興味のある方はご覧ください。また疑問、質問等があればメールをしていただければお答えできる範囲内でお答えします。
文・新倉直樹