ヨガ哲学では私たちが人生で行うべきことを学びます。
「どのように生きたらいいのか分からない」と悩む人も多いかもしれませんが、ヨガを通して正しい人生について考えてみてはいかがでしょうか。
ヨガで説くダルマ(職務・行うべきこと)には、自分個人に与えられたものと、人類の誰もが従うべきものがあります。
個人のダルマと人間としてのダルマ
ダルマには「義務・職務・行うべきこと」といった意味があります。
それは、自分自身と世界全体の全体を保つために、私たち1人1人に与えられた役割です。
ヨガのダルマには、全人類が共通して行うべきことと、1人1人に与えられた個別のものがあります。
サーマーンニャ・ダルマ:普遍的であり誰もが行うべきこと。
ヴィシェーシャ・ダルマ:時代や文化背景、土地や宗教によって変化するダルマ。
この2つがあることが分かると、ヨガは誰でも学ぶことができるものだと理解することができます。
多くの宗教では、「これを食べてはいけない」といった、生活の条件を設けます。
しかしヨガでは、「人を傷つけてはいけない」といった普遍的な教えと、時代や文化によって変化するルールとを別個に説きます。
そのため、時代背景が違う人や、違う国で生まれた人であっても自然と受け取ることができるのがヨガです。
誰もが学ぶべき5つのサーマーンニャ・ダルマ
では、誰もが従うべきサーマーンニャ・ダルマについてみていきましょう。
サーマーンニャ・ダルマの種類は、インドに数多く存在する教典ごとに多少内容が違います。
今回は、『マヌースムルティ※1』という教典に書かれた5つのダルマを見ていきます。
- ※1 マヌースムルティ:ヒンドゥー教の代表的な教典の1一つ
5つのサーマーンニャ・ダルマ
- アヒムサー(非暴力)
- サティヤ(正直)
- アステイヤ(不盗)
- シャウチャ(清浄)
- インドリヤ・ニグラハ(感覚の抑制)
ヒンドゥー教の教典と書いたので、 「急に宗教では?」と思った方もいるかもしれませんが、現在のヒンドゥー教の教えはヨガの教典でもある『バガヴァッド・ギーター』を教典の1つとして扱っており、ヨガの教えが深く組み込まれた教えが説かれています。
特にダルマの考え方は、カルマ・ヨガ(行為のヨガ)と密接に関わっています。
そのため、少しヨガ哲学を学んだことがある方なら、聞き覚えのある教えばかりがダルマとして説かれています。
1つずつを深くみていきましょう。
1.アヒムサー(非暴力)
サーマーンニャ・ダルマの1つ目はアヒムサー(非暴力)です。
ヨガ哲学ではおなじみの教えです。これがダルマ?と聞くと、不思議に思う人もいるかもしれません。
ヨガの哲学では、「人を傷つけずに生きる」というのも、人間に与えられたダルマだと考えます。
仏教ではむやみに生物を殺さない不殺生を説きますが、ヨガで行うアヒムサーは少し違います。生命を傷つけることだけではなく、言語的、精神的な暴力性も避けるべきとヨガでは考えます。
人が聞いて不快に感じる言葉を避けたり、環境に悪い製品ばかりを購入したりと、直接的ではない暴力も避けるべきです。
自分自身に対するアヒムサーも大切です。
身体に鞭を打ち続けるような過労を続けたり、健康に悪い食生活を続けたりすることも自分を傷つける行為として認識されます。
誰も傷つけない行動を多なうことは、全ての人が行うべきダルマの中でも最も重要視される教えです。
2. サティヤ(正直)
サティヤは誠実さを意味する言葉です。
日常行う行為や言動が誠実であることも、全ての人が気を付けるべきダルマとして考えられます。
仕事に対しても、周囲の人に対しても、誤魔化さずに誠実に向かうことが大切です。
また、「嘘をつかないこと」もサティヤです。故意に嘘の情報を周囲に話すことだけではなく、無意識の嘘もよくありません。
例えば、アルコールを飲んで翌日二日酔いになるという経験を何度もすると、お酒は自分にとって不快なものだと学ぶことができます。
しかし、一時的な快楽のために、自分にとって良くない飲酒を続けてしまっては、それは自分に対するサティヤを破ってしまうことになります。
サティヤの遂行で重要視されるのは、真実であっても相手を傷つける言葉を発しないことです。
もし真実が誰かを悲しませるものであれば、言うタイミングやシチュエーション、話し方に注意を払って、相手の悲しみを少しでも減らすべきだと考えられます。
3. アステイヤ(不盗)
相手を騙すような言動や、直接的な行為によって富を奪う盗みを禁止するのがアステイヤです。
直接的に他者の利益を盗む行為はもちろんですが、他者が得るはずの財産を横取りするような行為、他者の苦しみによって得られる富もアステイヤに反しています。
例えば自分が企業の雇用主だった場合、社員のサービス残業によって成り立つような利益は搾取になってしまいますね。
アステイヤは金銭や物品だけではなく、あらゆる盗みに適応されます。
例えば、人のアイディアを盗んで成功を収める、友人との約束に遅刻して時間を奪うなどの行為が当てはまります。
4. シャウチャ(清浄)
サーマーンニャ・ダルマの4つ目はシャウチャ(清浄)です。
ヨガ・スートラではニヤマ(勧戒)の1つとして説かれています。これは、外部の清浄と内側の清浄の両方を含むものです。
外的なシャウチャとは、入浴などによって身体を清めること、自分の部屋や持ち物を綺麗に整えることです。
それに対して内的なシャウチャは心の中の清浄さを高めるもので、怒りや欲望などの不浄な感情を取り除くことです。
内的なシャウチャはサティヤ(正直)の実践と深く結びついています。心の中に偽りの言葉を持つことは心的な不純性を高めてしまいます。
常に正直であり、妬みや怒り、執着などの感情を手放すことが、内側の純粋さを高めてくれます。
5.インドリヤ・ニグラハ(感覚の抑制)
最後に紹介するのはインドリヤ・ニグラハ(感覚の抑制)です。
これは感覚を制御すること、抑制することで、ヨガではとても大切な実践です。
ヨガの用語では8支則のプラティヤハーラ(制感)という言葉を知っている人も多いと思います。
私たちが人生で対峙する苦悩の全ては、5感によって生まれてきます。
例えば、自分自身は健康で毎日平和に生活できているはずなのに、SNS を見たら同級生が贅沢な生活をしている投稿を見るとします。
すると、平凡な自分の人生がつまらないものだと感じて、嫉妬をしてしまうかもしれません。
このように、私たちは必要なものを与えられていても、いつも外から入ってくる情報に翻弄され、悩んだり恐怖心を抱いたり、苦悩を生み出します。
インドリヤ・ニグラハでは、感覚器官から入ってくる情報を制御することによって、自分自身と向き合い、自分の人生を生きるためにとても大切な教えです。
少なくてもヨガの練習の時間は、自分だけに向き合う。テレビやスマートフォンで情報をチェックし続けることを辞めるなど、意識を外から内に向けていくだけで、心の平穏が養われていきます。
日常で意識するサーマーンニャ・ダルマ
今回ご紹介したサーマーンニャ・ダルマは、宗教や時代、生まれた国や性別に関係なく、誰もが遂行すべき教えとして説かれています。
「これを食べなさい」といったような具体的なルールではないので、抽象的で少し難しいかもしれません。
しかし、どれも快適な人生を行うためにはとても大切なものばかりです。
日常生活の中で意識を高めていくことで、人生の変化を感じてみましょう。